2014年6月15日日曜日

イタリア対イングランド「それでもやっぱり4-4のブロック」

 ワールド・カップ初戦の対イングランド戦においてイタリア代表はこれまでとは大きく異なる、またも新しいフォーメーションを使って挑んだ。
 イタリア代表は、9月から勝利が全くなかった。およそ10の試合を捨てて、従来使ってきた4-3-1-2や4-3-3、3-4-2-1とは違う新しい布陣を試し続けてきた。2013年の終盤には4-4-2を基本的な布陣として固め、2014年3月のスペイン戦でもこれを採用した。しかし、ワールド・カップのメンバーを招集した段階でもまだプランデッリは、最終的な判断を下していなかった。

 最後の強化試合となったルクセンブルク戦は、4-1-3-1-1というイビツな布陣で挑んだ。
 4バックの前にデ・ロッシを置き、その前にはマルキージオ、ピルロ、ヴェッラッティという3人のパサー、トップ下には運動量に定評があるカンドレーヴァが入り、バロテッリがワントップとして前方に構えた。中盤の深い場所からのオーバーラップに相手は上手く対応することができず、イタリアは多くのチャンスを作ることに成功した。
 ガッゼッタ・デッロ・スポルトなどを始め、多くのイタリアのサッカー・メディアがこの布陣でワールド・カップの最初の試合を戦うだろうと予想していた。
この新しい布陣に至る過程などはこちらで

 しかし、イタリアは実践経験のない、全く新しいものを採用した。
 形自体は、特に新しいものではない4-1-4-1だ。ポピュラーな布陣ではないが、今までにいくつかのチームが採用してきている。しかし今回のイタリア代表の4-1-4-1では、その中身に特徴的な点が多い。
 この布陣の中で自由な動きを許されているのが、ピルロとヴェッラッティの二人のMFだ。彼らは中盤の底に入ったデ・ロッシの前で、いわゆる「レジスタ」の仕事をするセントラルMF。パスの能力は頗る高く、長短問わずに正確なボールを蹴ることができ、パスコースを見つけるのも早い。所属チームであるユヴェントスとパリ・サン・ジェルマンにおいて、どちらもポジションに若干の違いがあるとは言え、敵陣を少し離れた位置からチャンスを演出する仕事を全うしている。
 この試合では、ピルロとヴェッラッティは縦横無尽に好き勝手に動いた。デ・ロッシを挟んで左側のピルロと右側のヴェッラッティという一応の定位置はあるが、そんなのはお構いなしといった様子である。特にピルロはデ・ロッシの位置に行くことを好み、ヴェッラッティは左サイドのライン際に顔を出すこともあれば、敵陣深くにも侵入した。
 この二人の自由な動きをカヴァーしたのが他のMF、とりわけデ・ロッシとマルキージオだ。ヤドカリがカラに篭もるかのように、ピルロが自陣深くのいつものお気に入りの場所へ移動すると、デ・ロッシはそれに対応してやや前方にポジションを取る。ヴェッラッティが左サイドに大きく移動すれば、これも同様にデ・ロッシが右寄りにポジションに移動し、またはマルキージオが中盤に入ることもあった。
 自由なピルロとヴェッラッティのカヴァーをするのは主にデ・ロッシと、それからマルキージオが担ったが、サイドMFとして出たカンドレーヴァとマルキージオには他の仕事があった。バロテッリのサポートである。無策にこのような4-1-4-1を採用した場合、バロテッリが孤立してしまい何もできなるから、マルキージオとカンドレーヴァにはFWやトップ下としての働きも多く求められた。彼らは頻繁に敵のボランチ(ジェラードとヘンダーソン)がいるところに顔を出し、中盤の3人とバロテッリの橋渡しの役を担った。

 守備に関して。プランデッリはこの1年間、4-4の守備ブロックを厚く信頼していた。ベーシックな4-4-2の布陣はこれを最もシンプルに行うことができ、先述の通り、スペインのような強豪国を相手に採用した。4-1-4-1であっても、プランデッリのこの軸は変わらなかった。
 4バックはかなり中央に絞って守りに入る。お互いの間隔は手を伸ばせば届いてしまうのではないかというくらいに近く、さらに横に綺麗に整列しているから穴がない。
 その前に立つのが中盤の4人だ。デ・ロッシとピルロは必ずそこにいる。残りのヴェッラッティ、マルキージオ、カンドレーヴァは、お互いに連携を取りながら、そのうち2人が中盤に入り、残った1人がバロテッリと共に高い位置でプレイをし、前線から激しくプレスをかけていった。ゾーンプレスがそこには徹底されており、流動的に中盤の4人のメンバー構成と位置取りは変化する。
 イングランド代表が人数と時間をかけて攻めようとする場合に限り、バロテッリをひとり前線に残して、ピルロとデ・ロッシとヴェッラッティが真ん中にDF同様に絞り、マルキージオとカンドレーヴァがサイドの攻防に出た。

 前半はこの布陣において少しの不都合が生じた。イングランド代表は伝統的にサイド攻撃を重視するチームであるため、サイドMFの質が高く、サイドDFとの連携もキチンと取れている。そのせいで、特に左サイドではマルキージオとキエッリーニが上手いように突破されるシーンが目立った。
 後半に入り、守備を弱点とするヴェッラッティに代わり、インテルやバルセロナでは中盤の底でプレイをしていたチアゴ・モッタが入ると、前半の課題が解決された。足下でボールをもらいたがるバロテッリに代えて、裏への飛び出しを得意とするインモービレを投入したこともこれに貢献し、さきほどの守備ブロックから無造作に蹴りだされたボールにインモービレが反応するようになった。カンドレーヴァとマルキージオが担当していた橋渡しの役も緩やかになっていった。
 カンドレーヴァを下げて、「器用貧乏」と揶揄されるほどにあらゆる役割を卒なくこなすことができるパローロが入れば、鬼に金棒。役割が多様に入り組んだ複雑な中盤は、さらに安定感を増し、疲弊したイングランド代表の手に負えなくなってしまった。

 これほど複雑な戦い方を平然とやってのけるチームは、ワールド・カップの出場国の中ではイタリア代表しかいないだろう。それは、万能型の選手を多く招集したからこそできることであり、MFのタレントが豊富にいるこの世代ならではの戦術だ。
 カッサーノやチェルチ、インシーニェなど、素晴らしい実力を持つ攻撃的な選手がこの試合ではまだ出ていない。バロテッリの能力もFWの正規のパートナーがいるとさらに良く発揮される。イタリアにはまだまだ隠し球があるのだ。
 イングランド戦に勝利したこと、さらに強敵ウルグアイがコスタリカに敗れたことで、イタリアのグループリーグの突破はずっと近くなった。もちろん、コスタリカを侮ることはできないが、優勢に試合を進めることができるだろうと予想される次の試合では、イタリアはFWに厚みを持たせた新しい戦い方を選ぶと考えられる。

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