2014年6月24日火曜日

2022年ワールド・カップの開催地がカタールでなくなるとヨーロッパの移籍市 場 は大荒れに

 ブラジルでワールド・カップが盛り上がる最中、2022年のワールド・カップの開催国が変更される可能性が出てきている。開催国カタールでは、その過酷な暑さ・生活環境などが原因でスタジアム建設やインフラ整備で死者が続出しており、6月3日発売の『Newsweek日本版』の記事を参考にすると、すでに1200人が死亡、2022年までにその数は4000人に上るという。
 今大会の後に提出される調査報告書を持って、カタール大会開催の是非が決まる。代わりの開催国の候補はアメリカ・カナダ(同時開催)と、2019年ラグビーW杯と2020年東京五輪で開催環境が保証されている日本だ。

 カタールでワールド・カップが行われなかった場合、ヨーロッパのサッカーに、特にセリエAとリーグ・アンには大きな影響を来たすであろう出来事が起きるかもしれない。新興ビッグクラブ、パリ・サン・ジェルマン(PSG)の破産だ。なぜか。2013年にアメリカ経済誌『Forbes』に掲載された記事を見て頂きたい。
2013年7月21日Forbes記事
(以下和訳一部引用)
パリ・サン・ジェルマンは湯水の如く金を流し、選手を手に入れてきた。ちょうど今週、1億5000万ドルを使い、エディソン・カヴァーニ、ルーカス・ディーニェ、マルキーニョスの3人の選手を獲得したところだ。
これにより、2011年からの二年間でのPSGが選手の獲得に使った金額が5億ドルに及ぶことになった。2011年とは、カタール観光庁(Qatar Tourism Authority)が1億3500万ドルでこのクラブを購入した年である。 
QTAによるこの事業は、1億4200万ドルの投資を皮切りに始まった。最初のシーズンでリールがリーグ・アンを制覇すると、優勝をするためにはまだ充分ではないと知った彼らは翌年、さらに2億ドルをクラブの補強に使った。そして遂にその野望を果たし、チャンピオンズ・リーグにおいてもベスト8の好成績を修めた。
1970年に設立されたPSGは、今までほぼ全ての年を赤字で終えている。QTAが経営に乗り出す前年の2010年は、-3700万ドルの赤字を記録した。となると、上記のような近年のQTA主導の経営によって、その赤字はより一層拡大しているのではないだろうか。
しかし、多くの人が驚くであろうが、QTAが登場してから2012年6月までのおよそ1年間で、その赤字分はたったの-700万ドルになった。
その秘密のひとつは次のとおりである。その年に契約した選手の移籍金は、契約年数に応じて分割払いとされており、つまり1億5000万ドルになるはずの支出は、4年契約を主とする交渉締結によって、一年当たりに換算すればその4分の1の3750万ドルに抑えられていた。しかし、そうは言えど、前年の-3700万ドルから3000万ドルも赤字を減らしたことは、これでは説明ができない。 
給与支払い額は9100万ドルから1億5300万ドルと、その一年の間に6200万ドルも上がっており、全体の支出においても1億2700万ドル以上増加した。要するに、前年の赤字(-3700万ドル)を実際の成果(-700万ドル)にまで減らすには、一年で1億6000万ドル以上の歳入がないと計算が合わないのだが、この歳入はあまりにも大きい。
かつてここまでの爆発的な歳入の増加に成功したクラブなど存在しない。 
では、2011年から2012年にかけて、具体的にどのような歳入があったのだろうか。
・広告収入―前年比1800万ドル低下
・放映権―同270万ドル増加
・入場料―同900万ドル増加
クラブの基本収入となるこの三大要素においては、1億6000万ドルの増収どころではなく、むしろ630万ドル、歳入を減らしている。  
PSGの歳入に大きな影響をもたらしたのは、一般的なサッカー・クラブとしての活動を通してのものではないということだ。
2012年のPSGの経営報告を見てみると、「その他の歳入」が1億6000万ドル(歳入全体の50%)に及んでおり、これはつまり、オーナーの資金から賄われた分だ。
QTAからPSGへと流れたこの奇妙なお金、「その他の歳入」は2012年後半には、4年で9億ドル相当に及ぶ金額になると報告された。
サッカーの歴史上、これは最も大きな金額であり、さらに奇妙なことに、これほどまでに巨額を投じたQTAには見返りがほとんどない。彼らはネーミング・ライツも持たなければ、ユニフォームに名前も出さない。PSGが巨額の融資の見返りに彼らにしてあげられることと言えば、カタールへの旅行者増加を促進することのみであった。

 以上の記事から分かる通り、PSGはその経営の大部分をカタール観光庁に頼っている。PSGへの投資によるカタール観光庁の見返りは、2022年ワールド・カップを見越した「サッカー好き観光客の増加」であり、その投資金の元手はカタール政府の国家予算だ。
 2022年ワールド・カップがカタールで開かれなくなれば、カタール観光庁がPSGに融資する理由がなくなる。場合によっては突然、融資を打ち切ることになるかもしれない。PSGの現在の支出額はカタール観光庁の融資なしには賄うことができない。

 UEFAはこうしたリスクを避けるために、借金をせずに経営を行う「ファイナルシャル・フェア・プレイ」をクラブに求めてきた。そして再三の警告を無視し、経営改善に努めなかったPSGにはマンチェスター・シティと共に最高レベルの経済制裁が課せられており、その内容は6000万ユーロの罰金とチャンピオンズ・リーグの登録選手数制限である。
 経営破綻をしたクラブに対しては通例、下部リーグへの降格が言い渡され、また負債を少しでも返済するためにほぼ全ての選手の放出を余儀なくされる。PSGの選手はその多くがかつてセリエAで活躍していた選手だ。彼らが一斉に破格の安さで移籍するような事態になれば、ヨーロッパ、特にセリエAの移籍マーケットは大荒れするだろう。

 確かに、これほど大きな事件が起きるとはさすがに考えづらいが、PSGにはやはり経営を見直す姿勢が要求される。

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