2014年5月21日水曜日

今年の夏は金満クラブの選手がお買い得?

 フィナンシャル・フェア・プレイ(FFP)の規定違反により、マンチェスター・シティーやパリ・サン・ジェルマン(PSG)ら9つのクラブに対し、UEFAがついに制裁処分を下した。それぞれのクラブは、罰金やチャンピオンズ・リーグの登録選手数の制限、そして現在のチーム全体のサラリーを下げるよう勧告されている。特に制裁が大きいのはマンチェスター・シティーとPSG。彼らには暫定6000万ユーロの罰金が科せられた。チームを再編し収支状況などが改善されれば、罰金は2000万ユーロに減額されるため、彼らは今後2年の間にあまりに多すぎるトップ・プレイヤーを整理したいところだ。


 マンチェスター・シティーは昨年に続き今年も、「世界で最も多くの給料を選手には払っているスポーツチーム」となった。スター選手が集まることで有名なニュー・ヨーク・ヤンキースを2位に、レアル・マドリードとバルセロナをそれぞれ4位と5位に抑えた。詳しくその額を見てみると、一週間に102万ユーロを選手の給料だけに使っている(レアル・マドリードは同96万ユーロ、マンチェスター・ユナイテッドは同83万ユーロ、チェルシーは同76万ユーロ)。マンチェスター・シティーの給料などは以下の通り。


選手名
ポジション
出場試合数
得点
アシスト
年齢
年俸
ジョー・ハート
GK
31


27
4.68
コンパニー
CB
28
5
1
28
10.4
ナスタシッチ
CB
11(2)


21
6.3
レスコット
CB
8(2)


31
4.68
デミチェリス
CB、LSB
27
2
1
33
0.7
ミカ・リチャーズ
RSB、CB
2


25
2.75
クリシー
LSB
18(2)


28
5.72
コラロフ
LSB
21(9)
1
7
28
6
サバレタ
LSB、RSB
34(1)
1
6
29
3.38
フェルナンヂーニョ
CMF
29(4)
5
3
29
5.2
ヤヤ・トゥーレ
CMF
35
20
9
31
15
ハヴィ・ガルシア
CMF
14(15)


27
4.3
ヘスス・ナヴァス
SMF
18(12)
4
7
28
2.5
ミルナー
SMF
12(19)
1
4
28
3.8
ナスリ
SMF、OMF
29(5)
7
7
26
8.4
ダヴィド・シウヴァ
SMF、OMF
26(1)
7
9
28
6.76
ネグレド
FW
21(11)
9
3
28
3.9
アグエロ
FW
20(3)
17
6
25
10.4
ヨヴェティッチ
FW
2(11)
3
1
24
6.24
ゼコ
FW
23(8)
16
1
28
8.47
(単位はミリオン・ポンド)

 クラブが公表していないため、これらの年俸は推定の域を出ず、また勝利給や賞金が別途に支給されるために実際の所得は、これを大きく上回ることになる。強豪クラブであれば、一度試合に勝つだけで選手は5万ユーロから10万ユーロの賞金がもらえる。
 他の同国でプレイする選手たちに目を向けてみると、マンチェスター・ユナイテッドのウェイン・ルーニーは1800万ポンドと郡を抜く高額年俸となるが、同チーム所属のマタは780万、今季アーセナルに加入したエジルは728万、チェルシーのランパードは784万、アザールは884万、リヴァプールのジェラードは728万ポンド、スアレスは1000万ポンドの年俸である。
 セリエAではASローマ所属のデ・ロッシの年俸が最も高く650万ユーロ(現在1ユーロ=0.81ポンド)、その他ディエゴ・ミリートが500万、テヴェスやトッティが450万、バロテッリが400万である。650万ユーロであれば、換算すると802万ポンドとなるので、セリエAのトップ・プレイヤーよりもプレミア・リーグの彼らの方が若干高い給与を受け取っていることになる。

 マンチェスター・シティーは、アグエロやヤヤ・トゥーレ、ゼコ、コンパニー、ナスリといったエース級の給料をもらう選手が複数人いることに加え、控えの選手であっても年俸が相当の額に上る。
 また、レアル・マドリードやバルセロナのような伝統的なブランド力のあるチームであれば、スタジアムへの観客動員数や放映権、スポンサー料、ユニフォームなどのグッズの売上など様々な収入が見込める一方で、マンチェスター・シティーの場合は、金儲けの才に溢れた経営者の功績もあり、それらが少ないとは決して言えないが、世界一に見合うようなものでもない。
 実際に、アメリカ経済誌Forbesがまとめたサッカー・チームの価値評価では、マンチェスター・シティーは7番目に位置しており、1位のレアル・マドリードの34億4000万ドルの価値と比べると、およそ4分の1の8億6800万ドルとなる。ニュー・ヨーク・ヤンキースであれば、この数字は25億ドルだ。

 しかし、不思議なことに、あまりマンチェスター・シティーの移籍の噂が浮上しない。
 イタリアのスポーツ紙はナポリからヨヴェティッチに対して移籍金1500万ユーロのオファーが届いていることを報じているが、624万ポンドの年俸を貰いながら2試合でしか先発出場をしなかった彼は残留の意向を述べている。
 実現しそうな移籍を挙げるとすれば、ミルナーのアーセナル行きとヤヤ・トゥーレのバルセロナ復帰くらいだろう。

 もっとも、単純に彼らにFFPのルールを守る気があまりないのかもしれない。
 そもそも、FFPとは、あらゆるクラブを存続させるために財政の健全化を促す制度だ。基本的なルールとして、収入以上の支出をすることを許さず、改善の見られないチームには罰則が適応される。マンチェスター・シティーらは、オーナーのポケットマネーを使い(オーナーが一人ではなくグループ会社であったりもする)、選手を獲得する行為があまりに度が過ぎたために、罰則が適応された。
 金持ちがチームのバックに付くという行為は、もしもその金持ちが気分でそれをやめた場合に大打撃を被る。2年前のマラガが良い例だ。カタールの王室によって買収されたこのチームは、当初はその潤沢な資金によって多くの有名選手を獲得、チャンピオンズ・リーグにも出場を決めたが、突如、経営不振が表面化し、選手の給料が払えなくなってしまった。現在では、UEFAから2017年まで欧州カップ戦出場停止処分が下されている。

 しかし、マンチェスター・シティーからすれば、マラガと一緒にされたくない気持ちはあるだろう。マンチェスター・シティー経営は、金持ちの娯楽というような側面は一切なく、City Football Group社を軸にした世界的サッカー事業のひとつである。実際に、クラブの基礎づくりのために投じた大金を凄まじい勢いで彼らは回収している。さすがは、経済・経営の天才の集団である。行き過ぎた高額年俸の問題を今後2年以内に人員整理を通して改善すれば、ニュー・ヨーク・ヤンキースやレアル・マドリードに肩を並べる世界最大のスポーツクラブが完成する。
 
 PSGも、上手くFFPの抜け道を探している。
 ヴェッラッティやシリグらは年俸が上がる直前、彼らの比類なき才能の片鱗が小さいクラブで少しだけ見え始めた段階で獲得していたため、マンチェスター・シティーほどに莫大な額になってはいないものの、イブラヒモビッチの1500万ユーロ、カヴァーニの1000万ユーロの破格の年俸はチャンピオンズ・リーグなどで恒常的に結果を残さなければ手に負えなくなってしまう。
 なによりも選手を獲得する際に払った金額があまりに膨大で、クラブ経営のみによって3億ユーロを越える支出を回収する手立てがあるとは思えないが、驚くことに彼らは非常な姑息な手段ではあるがそれを持っている。ひとつはその移籍金を分割払いにし、年単位での支出額を抑えること、もうひとつは意味深長な「その他の歳入」(大方、事実上オーナーからの融資だろう)によりクラブ経営を続けていることだ。ボロはそう遠くないうちに出てくるかもしれないが、これでとりあえずFFPの問題を回避しようとしている。
 そして、この期に及んで、PSGは今夏、チェルシーのアザールを5000万ユーロで獲得に乗り出した。

 この2チーム以外にも、ガラタサライやゼニト・サンクトペテルブルクなど、UEFAの制裁の対象になった「金満クラブ」が7チームある。それらに所属する高給取りの何人かは自身の実力に見合う名門クラブへ移籍することになるだろう。ちょうど、サミュエル・エトーがアンジからチェルシーに移籍したように。しかし、その選手がそう多くいるわけではない。ほとんどがチームに残る。

 つまり、FFPの制裁があったからといっても、欧州サッカーの世界が健全化することもなければ、健全なクラブが金満クラブの選手たちを安く買うこともできそうにないのだ。

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