2014年5月16日金曜日

新しい守備のトレンド?4-4の縦ブロック

 もうすぐ終わりを迎えようという2013-14シーズンは、サッカーの転換点であった。
 90年代から栄えた「ポゼッション・サッカー」は、グァルディオラ・バルセロナが実現させた、ときに80%を超えるほどの圧倒的な支配率を誇るサッカーにおいて隆盛を極め、各々のチームはそれにとって代わるサッカー、ないしはプラスアルファを探し始めた。バイエルン・ミュンヘンに移ったグァルディオラは、サイドバックに新しい役割と動きを与えた。上下の動きだけでなく、ピッチの中央へと入り、中からウインガーへとボールを送るプレイだ。戦術大国のイタリアでは、コンテ・ユヴェントスが二人か三人のパサーと四人から六人のフォワードという、いびつな攻撃戦術を編み出し、セリエAで敵無しの状態を作り出した。ASローマも、2012-13シーズンからコンテが取り入れた上記のサッカーを半ば踏襲する形で、「中盤の底」に立つデ・ロッシを木の幹とするなら、そこから多様に枝が広がるようなツリー型の攻撃を展開し、決してタレントが揃っているとは言えないメンバーをもって、結果を残した。

4-4の縦ブロック
 
バルセロナのような超攻撃的なチームに対し、徹底的に守ることによって勝機を見出すには、4枚のDFと5枚のMFで守備を行い、1人のFWが前方で待ち構える布陣が定番であった。「トップ下」の選手がジダンやカカーを最後に希少種となり、クリスティアーノ・ロナウドやメッシ、リベリーなどのようにエース級の選手たちがウィンガーの位置で活躍することが多くなったとき、彼らに二人から三人の駒を当てて挑むためには、4-5のブロックを敷き、サイドバックとサイドMF、加えて近くにいるCMFがその駒の役割を担う必要があったからだ。
 しかし、チャンピオンズ・リーグ準決勝レアル・マドリード対バイエルン・ミュンヘンの試合は、4-5のブロックという定番が新しいブロックに代わる象徴的なものとなった。知将カルロ・アンチェロッティはこの試合、4人のMFと4人のDFを並列に中央へと絞りこませ、ゴールから離れたサイドにおける攻防で負けることは妥協する潔さを持った、賭けに出た。その結果として、見事、ディフェンディング・チャンピオンを完封することに成功した。
 この戦術は、いくつかの戦術を解説した記事や試合レポートにおいて「新しい守り方」として紹介された。確かにトップレベルにおいて、これほど美しく、攻撃的なサッカーを封じ込めた4-4のブロックは、2010年代では存在しなかった。しかし、イタリアのいくつかのチームは、すでに今シーズンの始めから時折、この戦い方を始めていたことに気付く人は少ない。なにしろ、レアル・マドリード自身が、今季チャンピオンズ・リーグのグループ・ステージで、ユヴェントスにこの布陣を敷かれ、その守備の堅さたるやを感じていたのだ。

 今シーズン、最初にこれに挑戦したのは、おそらくプランデッリだ。彼の指揮するイタリア代表は、すでにワールド・カップへの切符を手にしていたため、消化試合となる残りの予選の試合では様々なフォーメーションに挑戦していた。その中の一つ、2013年10月のデンマーク代表戦で用いられたのが、4-4の縦ブロックを駆使した守備陣形だ。右からカンドレーヴァ、モントリーヴォ、チアゴ・モッタ、マルキージオを並べたMFは、サイドの二人の片方が攻撃時にFWの役割をも担うことで4-3-3と併用しながら(時には四人のうちの任意の一人がトップ下に入り4-3-1-2をも併用しながら)、4-4の縦ブロックを形成した。その後の試合ではこの4-4-2の精度に磨きをかけることに集中しているイタリア代表は、直近のスペイン代表戦においても同じ布陣を敷いてきた。

 続いて、アッレグリのACミランがそのイタリア代表対デンマーク代表の試合が行われた直後の2013年10月、サン・シーロでのバルセロナとの一戦で、4-4の縦ブロックを採用した。中盤に3人のボランチの横にビルサとカカーを配し、攻撃されていない方のサイドMFがFWロビーニョのパートナーとなった。バルセロナがゆっくりと攻めるときは、カカーとビルサ両方が下がり、4-5のブロックと併用した。ネスタとチアゴ・シルバを一気に失ってからセンター・バックに問題を抱えているミランは一度、メッシの突破を許し失点をしてしまうのだが、全体としては、世界屈指の攻撃陣を相手に善戦をしていた。

 ユヴェントスがレアル・マドリードを相手に4-4の縦ブロックを採用したキッカケは、「事故」である。試合が始まる段階ではテヴェスとマルキージオがウィングに入った4-3-3の布陣を基に、バルセロナ戦のミランと同じように4-5と4-4を併用した縦ブロックで守っていたのだが、後半が始まって早々にキエッリーニがレッドカードを受けて退場したことで、5人のMFを並べることができなくなってしまった。この段階でユヴェントスは1点のビハインドを背負っており、FWを置かない布陣など考えられなかったからだ。この4-4のブロックは人数が一人少ないことを感じさせないほどによく機能した。理由の一つに、普段からこのチームが4-4のブロックを作っていることが挙げられる。3-5-2が象徴的なユヴェントスだが、守備時は一方のサイドMFがDFとなり、4-4の縦ブロックで守ることがルールとなっている。この試合では、人数が減ったことで攻撃時のダイナミックさを欠いてしまい、逆転することはできなかったが、急遽サイドバックとなったアサモアーにしろ、サイドMFとなったポグバとマルキージオにしろ、守備に関しては普段の動きと大差は無かったのである。


イタリアの4-4ブロック
 アンチェロッティ、プランデッリ、アッレグリ、コンテという四人のイタリア人監督の敷く4-4のブロックには、一昔前のゾーン・プレスに基づいたそれとは決定的に異なる部分がある。新しい4-4のブロックでは、サイドの攻防の勝ち負けをあまり考慮していないのだ。もちろん、自由にボールを中に入れさせはしない。ある程度の妨害はするし、そこでボールを奪おうとする努力も忘れてはいない。ただ、中にいる選手の数を余計に減らしてまで、サイドでの攻防に勝とうという気持ちがあまりないのである。最もそれが顕著なのはコンテ・ユヴェントスで、局面においては二人のFWと、ライン際へ遠征をする一人か二人のサイドの選手を除き、大半の選手がエリア内にいることもある。エリア内に絞ったDF同士の左右の間隔は3メートルほどで、相手FWがボールを持ってその間を通り抜けることは困難を極める。
 守備に従事する選手が多ければ多いほど守備自体が堅くなるのは言うまでもないが、それでも二人の選手をFWとして使い、4-4のブロックを志向するのは、なんともイタリア人らしい答えだろう。イタリア人は、歴史においても常に、遠回りであったり、セオリーに反するように見えることでも、結果的に最も合理的となった道を選んできた。第二次世界大戦では、ドイツや日本よりも二年も早くに負けを認めることで被害を最小限に留め、フィレンツェは蓄財を禁止されていた時代にいち早く銀行業を開始した。大規模な初期投資を将来の収益で回収し、利益を生み出すことを最も精力的にやってきたのは、他でもないイタリア人である。こうした革新的な合理性を見出すイタリア人の特徴はカルチョの世界でも存分に発揮され、サイドバックのオーバーラップやゾーンプレスなどといった、今では当たり前となっている戦術をどこよりも先に採用した。

 4-4の布陣が、4-5の布陣に勝る点は単純に、前にいる選手の数が一人多いことである。2011-12シーズンのチャンピオンズ・リーグでバルセロナに対して4-5のブロックで戦ったミランは、攻撃に転じることがなかなかできず、守備に奔走することになった。それでも2点を奪い、2-0で勝利をすることができたのはエル・シャーラウィーやボアテング、そして守備陣の奮闘とバルセロナの戦術的ミス、「ジャガイモ畑」な芝生がバルセロナのサッカーに頗る不都合であった事など、複数のファクターがミラン側に上手く転がったからであり、これを毎試合つづけ、結果に繋げることは難しい。ある程度の牙はやはり見せなくてはならない。また、昨今はどのチームも、フィード力のあるDFや守備的MFを持っているが、彼らにパスの選択肢を考える時間はできるだけ与えてはならない。しかし、4-5のブロックでは、どうしても彼らへのプレスが後回しになってしまう。だから、高い位置に二人の選手を置き、その問題に対処したい。守備に偏った選手を減らし、攻撃的な選手を増やすことで、攻撃はもちろんのこと、守備においても「一歩遅れる」ということがなくなり、結果的に失点のリスクを軽減することができるのだ。

 イタリア代表は、4-4-2ではない他のフォーメーションを使った試合においても、4-4のブロックを徹底している。ブラジルなどの強豪国に倣って、ひとつの大会をひとつのフォーメーションで戦い抜こうとする日本代表とは対称的に、相手チームに合わせてメンバーやフォーメーションを変えることがイタリアの伝統であり、プランデッリは就任以来、機能しうるほぼ全てのフォーメーションを試してきた。その中でも4バックをとった試合ではいずれも4-4のブロックは絶対であり、ワールド・カップもおそらく4バックを基準にチームを編成していくだろう。
 中盤の構成もピルロとデ・ロッシを軸として、モントリーヴォ、マルキージオ、チアゴ・モッタ、ジャッケリーニ、カンドレーヴァ、ヴェッラッティなどが残りの二つか三つの席を担当していく中で、ピルロ以外は皆サイドの役割を兼任することに苦はないから、イタリア代表の4-4のブロックはよく機能するはずだ。日本代表がグループステージを突破した際には、決勝トーナメント一回戦でイタリア代表と戦う可能性が大いにあり得る。カテナチオの新しい形を堪能するのに、絶好の機会となるかもしれない。

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